最後に硬い話です。
芸能界は新しいメディアの活用に関しては他の業界と比べかなり遅れていますが、それでも以前、私がここのコラムで何度か指摘したときと比べると、現在はかなりプロダクションやメーカー、番組等制作会社もインターネットを活用するようになってきました。
私は今年(2006年)、アイドル業界において、従来の紙媒体と、Webその他の新しい媒体との力関係のバランスが目に見えて変わりはじめると同時に、グラビアアイドルの淘汰が起きはじめる年ではないか予測しています。
以前、竹書房『Pure Smile』シリーズのプロデューサー・光安さんにお話をうかがったときに「今の若者に写真集を買う文化がない」と嘆いておられましたが、それが現実味を帯びている気がしてならないのです。
前身は紙がメインであった「スクランブルエッグ」も現在はWebがメインとなり、サイトのユーザからのアンケートを集めると、とにかく「動画」のリクエストが多いので、そのリクエストに対応すべく、ムービーの導入を開始しました。
「IT革命」という、少々使い古された言葉が今、まさに芸能界の裾野あたりでじわじわと湧き水が洪水となっていくように活用されはじめているような気がしてなりません。
ITはWebだけではない
従来の「紙」や「電波」に対して「Web」という媒体が敵対するようにとらえている芸能関係者もいらっしゃいますが、Webは対立するものでもなく、Webだけが新しい媒体ではないのです。
「携帯サイト」……この果てしなく持ち運びが便利で軽い情報端末を利用したメディアは芸能界においてはかなり新しいビジネスの場を与えてくれているのです。しかも、「公式サイト」の認定を受ければ利用料金の徴収は携帯電話会社が変わりにしてくれるという、非常に合理的な収益モデルを生み出してくれるのです。
つい先日、ニンテンドーDSに携帯向け地上デジタル放送を受信できるようになる会見がありましたが、これも新しい情報技術(IT)革命の一翼を担うわけです。そしてUMD(PSPで再生できる光ディスク)という新しいメディアが登場したことで、アイドルイメージムービーはPSP(プレイステーションポータブル)で再生でき、しかもUMDオンリーのコンテンツも登場してきているのです。
登録視聴者が700万人を超えたパソコンテレビ「GYaO」(ギャオ)ではインターネットを通じ、テレビ番組や市販されたアイドルイメージDVDの一部(場合によっては全部)を無料で見ることが可能な時代なのです。
かくして、プロモーション展開の媒体として旧来のメディアだけでなく、いろんな選択肢を自由に組み合わせることができる時代となったのです。
blogが最強のプロモーション
とはいえ、現状としてはアイドルのプロモーションでいちばん効果があるのはアイドル自身が毎日のように更新している「ブログ」にほかなりません。
アイドルにとってblogは“必須”ともいえる最強のセルフプロモーションツールとなったのです。正直、blogがあるアイドルとないアイドル、人気があるblogと人気のないblogに激しい格差が現れてきているのです。
現場のマネージャーや事務所社長に「すべての新人タレントにblogを義務付けましょう」と進言するつもりはありませんが、そうしてもいいほど、blogは強力にプロモーションしてくれるのです。アイドルのタレント性のなかに「blogでセルフプロモーションする能力」が新たに必要となってきているのです。
もはや、以前と同じ考え方は通用しません。アイドルは遠い存在ではなく、新しいメディアを通して身近な存在でなければ生き残れないのではないかとさえ思うのです。
ファンのblogが新たな“偶像”を生み出す
アイドルが書くblogが最強のプロモーションツールであるのと同じように、ファンが綴るblogも時に思わぬプロモーション効果を生み出すことがあります。
以前ですとファン同士のコミュニケーションツールとして「掲示板」というものがあり、そこで意見交換をしていたものが、今やblog同士でトラックバックやコメント機能を使い、次々と情報をつなげていくのです。
もっと前には「ミニコミ誌」がその役割を果たしていました。私は今はアイドルサイトを運営・制作していますが、昔は一アイドルファンで、気に入った新人アイドルのミニコミ誌、しかも数十部をコピーしたものをせっせと作り、アイドルとファンのコミュニケーションを楽しんだものです。
今はこれら面倒なことをblogでいくらでも「つなげる」ことができる時代なのです。これは20年前にはまったく考えられなかった「革命」だといえましょう。
前回、ここで、AKB48のことを取りあげましたが、これは本当に典型的な例で、毎日のように繰り広げられるステージがファンたちが綴るblogを通してかなり正確な情報を得ることができるのです。
そして、NTTのFOMAの端末があればさらにオフィシャルサイドからいろんな情報を無料で得ることも可能ですし、オーディションさえ携帯のテレビ電話を通して行う時代なのです。
Webでジャーナリズムを育てるために
いろいろなメディアを通してさまざまな情報が飛び交うようになった現在、人々が求められているのは、「何が正しい情報なのか」を見極める能力だと言われています。
特に、「2ちゃんねる」に代表されるような匿名掲示板に書き込まれている内容を自分のなかでどのように取り扱うのかというのは、ある意味本当に深刻な精神的問題を引き起こすことさえあります。
あまり記事にはしませんが、アイドル本人も結構「2ちゃんねる」を見ていることを私は知っています。「たいていは悪いことが書いてあるとわかっているけど、それでも見てしまう」とアイドルたちは言います。それは悪意がある、なしにかかわらず真実(本音)が含まれているから見てしまうのです。
アイドル情報を伝えるときに「ジャーナリズム」という考え方が必要かどうかは立場によって違うとは思いますが、健全な組織(団体、業界)には健全なジャーナリズムが存在するといいます。
アイドルはかわいければそれでいいのかもしれませんが、かわいいと思っているアイドルを応援し、売れてもらうためにはいろんな不透明な壁を乗り越えなければならないのです。伝統のある大きな事務所ならいざ知らず、ほとんどの芸能事務所は今にもつぶれてしまうほど本当に小さいのです。
そういう事務所に所属しているブレイク間違いなしの潜在能力のあるタレントを応援するためにはプロモーションの能力だけでなく、そういう子がブレイクできる環境になるように、ファンも含めた業界全体が成熟するためのジャーナリズムがどうしても必要なのだと私は常々思っています。
これらは非常に難しい問題ではあるのですが、どんな媒体(従来の紙や電波だけでなく、Webや携帯などの新しい媒体)であっても、健全な芸能界のためにはジャーナリズムは正しく機能すべきであるし、媒体によってなんらかの制限をするのは今後ますますナンセンスになっていくのではないかと私は考えています。
堅苦しい話になってしまいましたが、アイドル好きな一人として、そして私にとって現在いちばんフィットしているWebという媒体を通じてこれからもできる限り遠慮をせずに情報発信できたらと考えている今日このごろです。