本稿は1997年9月発行のスクランブルエッグ7号に掲載された原稿全文です。
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「MajiでKoiする5秒前」はどこまでマジに評価されるか
ご存じ「MK5」は、アイドル、タレント志望の女子小・中学生の定番曲として、この夏、数多く歌われています。曲もさわやかで歌いやすく、私たちスタッフもどちらかといえばオススメできる曲だと考えていました。
ところが、発表会でこの曲を聴きながら採点するにつれ、当初思い描いていたとおりの評価が得られないことがだんだんわかってきました。
歌詞がさわやか→曲も簡単で歌いやすい→タレント志望の小・中学生におすすめ……という図式は間違ってはいませんでしたが、その先にあったものは「良くも悪くも無難な選曲」ということでした。誰にでも歌えるように出来たとっつきやすい曲だけに、他の人との違いをアピールしにくく、タレント性の評価も、「良くも悪くも広末涼子止まり」になっています。最悪の場合、広末涼子と違った個性・タレント性を秘めた子がこの曲を選んだことによって将来性が見えなくなってしまった、といったこともないとは限りません。そんな心配はほとんど必要ありませんが(笑)、まわりの大人は知っておいたほうがいいでしょう。
結局のところ、その人の持つかわいさは出せても、その底にある潜在的な可能性を引き出すような仕掛けが入っている曲ではないので、評価も「それなり」で止まってしまうのではないでしょうか。ただ、不利な曲というわけではありませんし、いい曲だと思います。
ELTの落とし穴
今年の夏は Every Little Thingの曲もよく歌われました。上半期のヒット曲「Dear My Friend」も「For the moment」も、パッケージ商品としての質は高く、曲の持つ軽快なスピード感にうまく乗っかれば誰でも歌えてしまうところが、ELTの人気を高めるひとつの要因にもなっています。ところがこれは、けだるい顔の(笑)持田香織が鼻にかかった声で歌ってこそ生きるようにできているので、コンテストではそれほど高い評価に結びつくわけではなさそうです。
CDを聴いている分にはまったく気にならなかった歌詞も、発表会で聴くと薄っぺらく感じるし、それより何より「音域が狭すぎる(1オクターブ+1音)」のも気になってきます。聞き流している分には十分に心地よい曲なのに、選曲した人の歌を踏み込んで評価しようとすると、曲の軟弱さ(?)が見えてきます。
タレント志望の音域が狭い人にとっては候補曲としてキープしておくのは悪くはないですが、積極的にELTを選曲する利点がそれほどあるわけでもない、というのが正直な感想です。
意外に評価が高い「ひだまりの詩」
ドラマ「ひとつ屋根の下2」の挿入歌として大ヒットしたこの曲、スローなうえに難しそうに聞こえるので、それほど多くは歌われませんでした。選曲する側にもある種の覚悟がいるせいか、この曲で「はずれ」の人にはまだ出会っていません。ドリカムを歌ってみようと思っている人にとっては、この曲は候補曲としてキープしておいてもいいでしょう。ある程度音程がキープできれば、不思議なことにその人なりの評価がされるようにできているので、歌手志望でなくてもチャレンジしてみる価値はあります。
小室作品の有利不利
安室、globe、華原の最近の楽曲は、カラオケで歌って親しむことよりもアーティストとして聴かせることを重点に置くようになってきているので、コンテストの場にふさわしい曲がだんだん減ってきています。
今年に入ってからの安室奈美恵の曲は、イントロが長く、メロディ的なダイナミクスがない曲ばかりで、選曲講座的にはどれもおすすめできません。どうせ歌うのならちょっと前の曲を歌ったほうがいいでしょう。
globeの曲も音域や歌詞の制約により、選曲がいい評価に結びつくとは考えられません。私に相談されたら「避けるべき」と言います。
今、注目すべきは華原朋美でしょう。選曲講座的に言うと「当たりはずれの多いアーティスト」なので、はずれの曲を選べばどうしようもなく評価が下がりますが、当たりの曲を選べば年相応の広がりを感じさせてくれます。どの曲が「当たり」かはちょっと宿題にしておきましょう(笑)。20代の人が選曲で迷ったときに華原朋美が候補に残っているのならば、歌詞をよく読んで自分との距離を確かめながら歌いくらべてみればおのずとわかってくると思います。ただ、音域が合っていなければ選んでも意味なしです。
シャレになんないB級ポップス
前号「選曲○と×」でも触れましたが、オリジナル歌手がちらついたり、楽曲そのものの出来が気になるような曲はやめたほうがいいです。「シャレになんない」はその代表格。鈴木紗理奈のうるささと相川七瀬の楽曲の模造品を想像させてしまう曲が評価されるわけがありません。篠原ともえも常識的には避けるべきです。本人の評価の前にマイナスのイメージを持たれるのは得策とはいえません。また、小室チックな曲には変な作りの曲がいっぱいあるので、あまり知られていない曲を選ぶとドツボにはまる可能性があることも頭の隅に置いておいたほうがいいでしょう。
川本真琴は難しい
川本真琴に挑戦する人が意外に多かったので簡単に触れておくことにします。ブレスの位置や子音のアクセントの置き方、歌詞に至るまで、今までにない、独特な新しいタイプの曲なので、評価が定まっていない部分がたくさんあります。リスクは大きいですが、チャレンジする価値はあるように思います。ただ、モノマネを超えて独自な解釈で歌ったとしても評価されるとは思えないので、自ずと限界はあります。スタンダードな曲も候補に挙げながらの選曲を心がけてください。
以上、具体的に曲を挙げて印象に残った部分をピックアップしておきました。そのほかの曲に関しては別にリストを作っておきましたので、同様に参考になさってください。また、今回の選曲講座に関しては、編集部の総意というわけではなく、私個人の考えによるものなので、このコメントがそのままコンテストで通用するとは限りません。その点を理解したうえで、再度検討材料にお使いください。
[付表1] 97上半期ヒット曲チェック more
Sweet Emotion(相川七瀬) |
相川の曲の中ではサマになりやすい曲ではあるが、基本的にこの人の歌う曲は独自の解釈を許さないので、キャラクターがある程度合致した人でないと映えない。迷っているのなら「この地球が果てるまで(佳苗)」も候補に入れてみてはどうだろうか。こちらはとっつきやすいし評価も素直に反映される。 |
Go! Go! Heaven(SPEED) |
SPEEDに限らずグループものを一人で歌うのにはそれなりの工夫が必要だということは知っておこう。歌も振りもそれなりにこなせないことには高評価には結びつかないし、沖縄アクターズ色が濃いキャラを追っかけて歌っても個性は評価されないのではないだろうか。ただし、グループで歌うのならまったく問題ない。 |
クラシック(JUDY AND MARY) |
最近のJUDY AND MARYの曲は音程が取りにくい。この曲もそのひとつだが曲の出来がいいので、音程がキープできたらそれなりに評価されるのでは。「くじら12号」だったらこっち。こだわらないのなら、以前の曲でもOK。JAMのメロディは寿命が長い。 |
ひこうき雲の空の下(亜波根綾乃) |
彼女の曲は、聞いている分にはとっつきやすく歌詞も素直だが、実は石嶺聡子を歌いこなすよりも難しかったりする。選曲面で得をするほうではないが、亜波根の中ならひとつ前の「がんばれ私!」が無難。 |
明日、春が来たら(松たか子) |
起伏がない歌。オリジナルでさえつまらないのにコンテストで映えるとはとても思えない。「I STAND ALONE」も同様。 |
魂のルフラン(高橋洋子) |
20代になると歌える曲が限られてくるので、この曲も候補に挙がるのだろうが、歌詞の内容がコンテスト向きとはいえないし、うまく歌えたとして感動を与えられるかどうか疑問が残る。 |
LOVE LOVE SHOW(THE YELLOW MONKEY) |
男性陣で今年の夏、最も歌われた曲。音域的に歌いやすいからだと推測されるが、エロティックな歌詞を歌いこなせるのはごくわずか。 |
[付表2] 簡易チェックシート
それほど意味があるわけではないのですが、気が向いたときに試してみてください。
□ 音域は合っている?
□ 選曲の理由を聞かれたら答えられる?
□ 自分らしさを出すのにふさわしい?
□ 余裕を持って歌える?
□ 歌詞が70%以上理解できる?
◇ コンテストの趣旨に合った選曲?
◇ イントロや間奏が必要以上に長くない?
曲目の変更がもうできないときには、
(1)とにかく楽しく歌うこと
(2)選曲の理由は正直に言う
(3)自分を見失わないように歌う
(4)振りをちょっと工夫してみる
以上を試してみましょう。