本稿は1994年12月発行のスクランブルエッグ創刊号に掲載された記事全文です。
本記事を無断で複製・転載することを禁じます。
本記事は1994年に書かれたものであり、扱われているアーチストや楽曲は古くなってしまいましたが、あらためてオーディション対策という視点で読み返したところ、21世紀になっても通用する点が多々あるように感じました。
スクランブルエッグ誌上では今のところ、同じ主旨の原稿を言葉や立場を変えて繰り返すことをしていませんので、すでに完売になってしまった創刊号の記事を新しく読者になった方が読もうと思ってもなかなか読めないのが実情です。
そこで、今回は、オーディションに受かるために頑張っている人たちに向けて、Webを通じて創刊号の記事を一挙公開することにしました。発表当時から6年経った今、どこまで参考になるかわかりませんが、何かしらヒントになることがあると考えています。
どんな小さなチャンスでも逃がすことのないよう、チャレンジを続けていってください。(2001.1.16 編集長:岡田)
実施日 | 名 称 (略 称) | 応募数 | 優勝者(年齢) | 審査員特別賞 | 歌手デビューの可能性 |
8/24,31 | 女ののど自慢 | 不 明 | 特にないが有力演歌系は必ず出場 | ||
8月26日 | ホリプロTSC | 27645 | 上原さくら(17) | 管野幸恵(13) | 95年ポリドールよりテビュー予定 |
9月3日 | 長崎歌謡祭 | 中西玲奈(17) | 直結していないが後に活躍者多し | ||
9月3日 | シャルレコンテスト | 858 | 野路由紀子(22) | 山崎 薫(24) | 3社のディレクターが審査に参加 |
9月4日 | OPD第3次メンバー | 約1400 | (不明) | フロントメンバーに入れば…… | |
9月8日 | 五木ひろし歌謡コンクール | 約3500 | 前田有紀(15) | 堀川亜希子(15) 松本厚美(14) 片桐智幸(30) |
徳間ジャパンが後援なので可能性が大きい |
9月18日 | 滝里美カラオケ大会 | 約1000 | 佐々木淑恵(21) | 女ののど自慢に出場できるが…… | |
10月2日 | スターは君だ | 5813 | 中江ひろ子(16) | 池間あかね(19) 藤田恵子(16) |
直結していないが後に別方面で活躍する可能性はある |
10月11日 | 演歌かましてよかですか? | 約3200 | 品川知子(20) | 吉田英樹(19) 松浦沙都美(14) |
ソニーミュージックエンタテインメントが全面的にバックアップ |
10月22日 | つがるおとめ少女組 | 約150 | 飯蔦早織(18) 福井多香子(20) |
期間限定のため多くは望めないが妙な展開で化ける可能性はある |
上のリストが本誌で取材もしくは記事として取り上げたオーディション&コンテストのリストである。それも参照しながら、これからオーディションを受けてみたい人や彼女らをサポートする人に向けて、最近起きていること、感じたことを「読んで」みることにしよう。(岡田隆志)
■オーディションの現状と対策
(a)アイドル/タレント系のオーディション
規模が大きく伝統のある「ホリプロTSC」と「スターは君だ」を見てみよう。ホリプロが上原さくらを選択した理由を推測すると、「歌そのものや歌いかたに執着がなく伸び伸びしているところに隠れている何か光るものが目に止まった」ということ。
そういう意味では森口博子、工藤静香、高橋由美子あたりの無難な選曲でもホリプロに限らずアイドル/タレント系のオーディションでは自分の思いがけない部分を発見してもらえる可能性がありそうだ。
一方、「スターは君だ」はデビューには直結していないが、賞うんぬんよりも参加することに意義があり、決戦大会まで残れば、業界関係者への認知度がかなり上がるため、チャンスは飛躍的に増大する。とにかく次に何かのオーディションに出れば有力候補になる。
本誌52ページ「1994新人歌手リスト」を見ていただければわかるように、最近の傾向として最初から「アイドル歌手」としてデビューできる可能性が薄くなっているので、アイドルを志望している人にはつらい時代かもしれない。
「どうしてもアイドルになりたい!」と思っているアナタは、ガールポップ路線に切り替えるか、ある程度妥協してでも、現実的に活動できる路線を選ぶことをオススメする。
(b)歌唱力重視のオーディション
今回取材した中では「五木ひろし」がこれに当てはまる。冬に毎年おこなわれる「コロムビア歌謡曲新人歌手オーディション」もそうだろう。
とにかく実力優先なので、歌唱力に自信のある人が応募し、当然ながらレベルはグンと上がり、必然的にセミプロレベルの有名人が多く決勝に残り、熾烈な戦いが繰り広げられる。
ちびっこ時代から活躍していた大物の登竜門のような様相で、断然演歌系が強い。演歌/歌謡曲系であるならば、こういった性格のコンテストやBS勝ち抜きなどで経験を積んで、多くの人と出会い、夢のデビューまでがんばり続けるというのが最短距離かもしれない。
ただし、技術ばかり向上して、内面の充実や人を引きつける魅力がなくなりがちなので、そのあたりには気をつけてほしい。
取材していて、「まとまりすぎてつまらない。引き出しうるべき将来性が見つけにくい」と思うことがよくあるので、歌を完璧に作り上げるよりは、将来性を見てもらえるような選曲をしてほしいし、そのほうが業界関係者にウケがいいようだ。
(c)アーチスト系/レコード会社のオーディション
今回取材した中ではソニーの「演歌かましてよかですか?」がこれに当たる。実は最近この系統のオーディションは非公開が多く、オーディションという形も取らず面接で決まってしまう場合もある。取材する側としては残念なことだが致し方ない。
こういった非公開のオーディションはレコードメーカーが主催している場合が多く、合格者はデビューに直結するという大きな利点がある。
いずれにせよ、アーチストを目指す人は自分をプロデュースしてスカウト担当者を唸らせるようなパワーが必要なので、自分自身を試す意味でも公開・非公開を問わずどんどん応募するべきだろう。合格できなくても、チャンスはグンと広がる。
■自分の何を見てもらうかによって選曲が決まる
本誌50ページに「選曲講座」を掲載したのでそれも参考にしてもらって、ジャンルごとに検討してみよう。
(a)純アイドル系
よく歌われるアイドル系歌手は、森口博子・工藤静香・高橋由美子の3人。知名度と歌いやすさから選ばれるようだ。
我々から見ると、歌う前から“平凡な人”だと「読まれて」しまう。よく歌われる曲はそれなりの選曲理由が見当たらないと、上積み点をつけにくいから、有利か不利かと問われれば不利の部類。
ただし、若々しさ、初々しさ、元気なところを見てもらうために選ぶのはかまわないし、発表会のための練習曲としてはちょうど良いので、必ずしも不利とはいえないが……。
今年後半のトレンドはスーパーモンキーズの『Paradise Train』。夏休みのTBS系ドラマの主題歌とロッテCMで認知されたのだろう、とにかく多い。安室奈美恵のマネはなかなかできないため、かえって自分なりの解釈で歌う傾向にあるから、我々から見ると適性の評価がしやすい。
酒井美紀は中学生に歌われやすい。酒井美紀の曲は、勢いで歌うよりはていねいに歌ったほうが良い。リンドバーグもよく歌われるが、やはり高校生まで。
篠原涼子、観月ありさの小室作品は来年前半に集中しそうだ。雰囲気やノリ一発で勝負したいならこういう選曲も可だが、タレント志望だと思われがち。歌手志望には不向き。
アイドル/タレント系は歌以外に自己PRも重要な要素。オーディションでよく聞く決まり文句は、「元気だけがとりえ」「負けず嫌いなところ」「何事にも一生懸命」の3つ。プロ志望ならそんなことは当たり前なので、他の人にはない、自分だけができることを何かひとつPRできる人でありたい。
あまり個性を前面に出すのも考えものだが、やはり何かないと印象に残らないと思う。
(b)ガールポップ系
アイドル系とガールポップ系の境界線はあいまいだが、よく歌われるのはプリプリ、ドリカム、今井美樹が他を圧倒的にリード。
プリンセスプリンセスはヒット曲が多いので、曲名を見るだけではうんざりとはしないが、どちらかというと無難な選曲だと「読まれる」。歌うなら、あまり歌われてない曲を。ただし、アルバムの曲はダメ。
ドリカムは、メロディーの跳躍が多く、オリジナル歌唱者の力量(70年代後半のソウルがバックグラウンドにある)で歌が成立しているので、本来ならば選曲すべきではない。マネになる場合が多いし、自分らしさを出しにくい。それでも歌いたいのなら、自分らしい歌い方を徹底的に研究して挑戦してほしい。それができたらあっさり優勝できるかも。
今井美樹の『PIECE OF MY WISH』は高橋真梨子『for you…』とともに最もよく歌われる曲。カラオケや発表会で歌うぶんにはちょうどいいのだが、プロ歌手を目指すなら選曲に工夫を望みたいところ。
最近の傾向はやはりビーイング系。カラオケでも歌いやすいし、ノリがいいので選ばれるようだが、歌詞が薄っぺらな曲が多いため、内面を見てもらうためにはどちらかといえば不向き。タレント志望で雰囲気を出したい場合ならばOK。
今回の取材の中で自分らしさをうまく出せたのは「シャルレ」の野路由紀子『好きになって、よかった』(加藤いづみ)、平尾MSの勝山美恵『満月』(松阪晶子)の2人。
まだそれほど歌われていないが、必ず誰かが歌っていそうな曲で、それまでのオーディション・発表会で聴いた中では最も自分なりの解釈で歌われていた、という共通点がある。選曲の秘訣はこのあたりにヒントがあるのかもしれない。
もうひとつ挙げておくと、メロディーが美しい曲を歌うと、そのメロディー自身の持つ力に助けられて好結果を生むことがあるようだ。
そういった観点で個人的に聴いてみたい曲を挙げておく。ただし、これはあくまでも個人的希望であり、この原稿は業界関係者にも読まれるので、取り扱いには注意されたい(笑)。
★近藤名奈『サラダ通りで会いましょう』
メロディーの跳躍が少しむつかしいが、まだそれほど歌われてなく、初々しさを見てもらいたいアイドル志望の方にオススメ。気持ち良く歌いきれるかどうかがポイント。
★JUDY AND MARY『BLUETEARS』
メロディーがとっつきやすく、オリジナルの歌もクセがないので、味つけしやすい。ノリを重視して歌ったり、ブレスを少なくしたり、歌詞のつかまえ方を変えてみたりと、いろいろできそう。
★森高千里『素敵な誕生日』
これは早く歌った者勝ちという感じだが、歌詞に深く共感できて、歌の主人公になりきって歌うと、その人なりのかわいらしさが出せるはずだ。
次にこんな曲を歌うときに注意したい点も挙げておこう。
★久宝留理子
『「男」』以降の一連のシングルは歌ってて気持ち良いが、歌詞の持っているパワーが強すぎて歌詞を自分のものとして表現しづらい。
★trf
楽曲自体にオリジナリティがあまりないので、選んだ時点で個性に欠けると判断される恐れがある。
★久松史奈、浜田麻里、森川美穂
歌われる曲が決まっていて、「うまく」歌える分、歌唱力以外の何か光るものが逆に問われる。
(c)演歌・歌謡曲系/アーチスト系
大学生やOLの年代になると、アイドルポップスを歌うわけにもいかないので、途端に選曲のバリエーションがなくなる。分をわきまえすぎて、同じ世代の気持ちを代弁する歌を選んでしまって、個性が見えにくくなってしまうのが現状。
焦る気持ちはわかるが、チャレンジ精神がない人は予選段階で落とされてしまうので、プロを目指すのならば、自分が何をやりたいか、自分のどこを見てもらいたいかということをハッキリさせておいたほうがいい。それがわからないようならプロ志望はキッパリあきらめたほうがいい。
演歌系は、小さいころから演歌を聞いて育っているか否かで、ハンデ差が生じる不公平な世界である。ただ、演歌が骨まで染み込んでしまうと、ポップスが歌えなくなってしまうので、どちらに転んでも親の趣味を恨むしかありません(笑)。
プロを目指すのなら、いずれも流行にとらわれず自分にしか歌えない曲を選んで、ていねいに仕上げていく以外に道はない。コンテストの評価は審査員が誰かによって大きく影響されるので、自分に合ったオーディションを選んで「コレ!」と決めた大会に照準を合わせて他のオーディションも受けてみると案外、いい結果が生まれるようだ。
自分で作詞作曲できるアーチスト志望の人は、自分の作品と歌をできるだけ多くの人に聴いてもらう地道な活動が必要。売れるか売れないかよりも、どれだけ多くの人を「う~ん」と唸らせることができるかがポイント。独りよがりでない形で、自分らしさを一歩引いた目で冷静に見られるようだとなお良い。
■自分らしさは誰にもわからない
では最後に個性の問題。
業界関係者も我々も「個性あふれる人」の出現を常に待っている。
そして出場者も「自分らしさ」を出そうと工夫している。
しかしよく考えてみると、個性なんてそう簡単に判断できないし、簡単に出せやしない。
業界サイドの本音は「個性」よりも「売れるか売れないか」であろう。よく考えれば当然のこと。だから個性なんかなくても、最低の一般常識と社会人としてのマナーを持っていて「売れる」と判断されれば運が良ければデビューできてしまう。
出場者にも「自分らしさを出したい」というよりも、「有名になりたい」という本音が見え隠れする。
我々スタッフの本音も「オーディションを見たい」「誰よりも早くいい素材を見てみたい」ことにある。
こうして「読んで」みると、どこにも「個性」という言葉は出てこない。個性は本当は不必要なのだろうか。
いや、そんなことはないはずだ。業界関係者の多くが「夢」を持っていて、理想と現実の間を行き来しながら、夢に近づこうとしている。その夢をかなえてくれるのが、若くて新鮮で「個性的な」人なのだ。
そういった「個性」は実のところ出場者本人にも、業界人にも我々もわからない。ただ、より個性的な人、より自分らしさを出せる人、その人でなければできない何かを持ってる人のほうがチャンスが多いことは確かだ。
……我々がオーディションや発表会の取材で歌をどう評価しているかというと、その時点での歌唱術よりは、本人と歌の距離・輝き・かわいらしさを含めて数年後の本人がどう良くなるかを見ている。「今」よりは「ちょっと先」を見ているわけだ。その「ちょっと先に私はこうなるのよ!」ということをうまくアピールしてくれる人が結果的に良い印象を与え、それが個性につながっていくのかもしれない。
あまり参考にならなかったかもしれないが、ひとつの考え方として「読んで」おいて損はしないと思う。