「ほんまもん」がわからない人のために
「ほんまもん」とは2001年10月から放送中(2002年3月30日まで)のNHK朝の連続テレビ小説のことです。学校や仕事の都合で見られない方も多く、以下の文章を読んでもピンとこないかもしれないので、ガイドとして、NHKオンラインの朝ドラのページに先にリンクを張っておきますので、概要はそちらをお読みください。4月になると次の朝ドラ情報に変わってしまいますので早めにチェックしてください。
ほんまもん
http://www.nhk.or.jp/asadora/
「ほんまもん」は、池脇千鶴扮する主人公・山中木葉が、父親ゆずりの天性の味覚を持ち、尼寺修業で精進料理を学び、父親の料理の味を学び、料理屋を継ぎ、ほんまもんの(究極の)料理人になるための過程を描いたドラマです。
朝ドラなだけに、ホームドラマとしての側面に割く時間は多くなりますが、メインは精進料理を追及していくシーンですし、その部分を楽しみに見ています。
「ほんまもん」に見る感動的なシーン
料理人であり師匠でもある父親を舌ガンで亡くし店を再開するシーン、精進料理の店として徐々に成功していくシーン、2号店出店から熊野に店を出していくシーン、出資者であり食通である笹川(不破万作)や入江(桂三枝)をうならせるシーン、そして客が食べたい料理を食べさせたいというシーンなど、私の心を打つシーンには共通するものがあります。
それはずばり「アーチストスピリット」という言葉に集約されます。
なぜ、そういったシーンにひかれるのかというと、主人公・山中木葉が「ほんまもん」のアーチストとして成長し、成功していく理想的な過程を描いているからなのでしょう。ドラマのなかでも紆余曲折がありますが、現実はこんなにうまくいくわけはないので、余計にいろんなことを考えさせられるというわけです。
「なぜ、ここまでに」……とまわりの人は不思議に思います。まわりの人が「なぜ?」を問うているときには、アーチストはとにかく追求し、実践している段階なので、わかるはずもありません。
アーチストにあこがれる人は主人公・山中木葉のここいちばんの決断力・実行力を学ばなければなりません。彼女が追求しているモデルはビジネスモデルとしてではなく、アーチストとしてのモデルであり、ドラマ上では成功しますが、現実はよほどのことがないと成功しません。そこをよく見きわめてほしいのです。
アーチストの本質
主人公・山中木葉は自分でも言います。熊野に出した店がうまくいかなく、店を閉める決意をしたとき、「商売人としては失格だった」と。
私はこのシーンがすごく好きで、アーチストとしてはかなりのレベルまでいっているのに商業的に成功できないというのは、当然(というかほとんど)現実としてあることなので、それをかなりリアルな状態で描いているからです。
アーチストとしては「ほんまもん」、でも商売として成立しない。ではどうすれば?
これに対する回答のひとつがこの番組のなかに示されています。もちろんドラマなので、最後はサクセスストーリーになってしまいますが、結果はともかく、過程がどうかというところを注目していただきたいのです。
そして、池脇千鶴が番組の役柄上で修業をしていく過程で、いかに美しく、凛々しくなったかということにも気づいてほしいのです。彼女が扮する「山中木葉」が「ほんまもん」の料理人になっていくときの表情の変化、顔つきの変化をよく観察すればわかりますが、このドラマは彼女をいかに女優として成長させているかがよくわかるドラマともいえるでしょう。
このコラムをお読みになって興味を持った方は、ぜひとも総集編再放送のときに、こういったところに注目して見直してください。
金が欲しいのか、納得いく作品がほしいのか
さて、ここからはアーチスト志向の人に向けて書きます。
私がなぜこのコラムでこんなことを力説しているのかというと、私は20代のときに実はジャズミュージシャンをしていまして、結局ビジネスとしてもミュージシャンとしても成功はできませんでした。でもそのことを決して後悔していません。むしろ、ほかの人が経験できないような貴重な体験をしてきたし、今、「スクランブルエッグ」誌の編集長として、芸能人・アーチストになりたいと思っている人のための記事を書くときや相談相手として自分の経験が大変役に立っていると思っています。
私が副業として請け負っている芸能プロダクションのWebサイト宛てに送られてくるメールで「歌手になりたいんですけど……」「お金がなくて……」などいろんなパターンの質問・自己PRを目にするのですが、ほとんどの場合は返事をしたくなくなるものばかりです。
結局お金が欲しいの? 結局目立ちたいの? 結局チヤホヤされたいの?
アーチストの本質とは関係ない自己PRや弁解ばかり。
自信があるなら行動に移すことが大切で、メールを送るのもそのひとつですが、「じゃあ履歴書と一緒にテープかビデオを送って」と返事をしたら即送れる準備すらしてないんじゃあ、何がどう自信があるのかすらわからないんじゃないの? というのが正直な感想です。
Editor's Eye
12号の「Editor's Eye」というコーナーで「Catch your Dream ~夢をつかむために~」という短い原稿を書いています。そこには自戒を込めて、夢をつかむためには何が必要なのかを書いたつもりなので、本気でアーチストになりたい人は読んでみるのもいいかもしれません。
実はその記事がある音楽教室の掲示板に拡大コピーされて貼り出されているとお聞きしました。それほど説得力のあるものだと私は思っていませんでしたが、行き詰まっている人や目標達成のために自分を変えたい人のために勇気と刺激を与えるものであったらいいと考えていたので、とてもうれしく思っています。
何をするにしても視点を変え、自分自身を知り、自分が見えない部分を目覚めさせるためにこの「ほんまもん」はひとつの方向性を示してくれるので、総集編があったときにはお見逃しなく。
ちょっと話が堅くなってしまいましたね。池脇千鶴はASAYANのオーディションで見事「三井のリハウスレディ」の座を獲得し、アイドル路線のエリートコースだったわけですが、これでいよいよ本格的にお茶の間レベルで女優としての認知度も上がり、これからもっと活躍が期待できることでしょう。隠れファンとしてもうれしい限りです。