DTPソフト解説本「エディカラーでいこう!」発刊とサイトの50万アクセスを記念して、紙媒体「スクランブルエッグ」ができるまでについて、芸能とは少し離れた側面から書きます。
「スクランブルエッグ」命名の由来
「スクランブルエッグ」を最近知っていただいた方にたびたびこう聞かれます。
「覚えやすくていい名前ですね。その由来はなんですか?」
その質問に対して私は以下のように答えています。
「将来スターになる卵(エッグ)たちをプロアマ、ジャンルを関係なく(スクランブル)紹介・応援していこうという意味なんです」
私個人としては、これらの目的に加え、小規模な出版物が世間にどれだけ波紋を投げかけることができるか、という実験的な側面もありますし、もうひとつは本当の意味で出版を編集側がコントロールするための方法としてのDTPシステムを完成させたいという挑戦の意味もありました。大目的と個人的目的が重なって、「スクランブルエッグ」は船出したのです。
「スクランブルエッグ」の歴史はWindows DTPの歴史
「スクランブルエッグ」誌は1994年12月に創刊しました。日本語DTPはようやくMacintoshコンピュータで軌道に乗りつつあるころでしたが、当時のDTPシステムは想像を絶するほど高価で、小規模出版をするには手が届かないシステムでした。
予算のない編集部が取った方法は、
- ワープロ専用機で組み、普通紙出力したもの
- 写真を印刷用に網点化してもらった紙焼き写真
- 見出し、タイトルなどを写植で打ってもらったもの
以上の3種類をハサミと糊を使って「台紙」に貼りこみ、印刷用版下として印刷所に入れていました。「版下」(はんした)とは印刷に使うハンコになる部分の完全原稿だと思ってください。
この方法で創刊号から第4号まで作りました。学生アルバイトさんにも手伝ってもらいながら、なんとか発行を続けることができました。ただ、問題は方法ではなく、目的だったので、その目的は十分果たせたと思っています。この時期に登場してもらった浜崎あゆみ、椎名林檎らのアーチストが後に世間に知られていくわけですから、私たちの世間に対する問いかけはだいぶあとになりましたが成功したのではないかと思っています。
「JG」→「パーソナル編集長」→「EDICOLOR」
Windows95搭載マシンが市場に出る少し前あたりから、パソコンの価格もだんだん安くなり、私もパソコンを利用するようになりました。Windows95が流通しだして、パソコン通信(当時はそう呼ばれていました)の仲間から「もう使わなくなった」という理由で、NEC PC9800シリーズのMS-DOS上で動くDTPソフト「JG」(ジェージー)を譲り受け、そのソフトを使って少しずつ組版をするようになりました。
フォントの品質がワープロ時代よりはよくなり、5号、6号、7号にかけてこの方法を中心にページを作るようになっていきます。
6号(97年3月発行)で本誌初のインターネット関連特集記事を掲載しました。と同時に、MS-DOSが動く時間は次第に少なくなり、WindowsのOSでの稼動時間が増えていきます。そこで登場したDTPソフトが「パーソナル編集長」(バックスコーポレーション)でした。
「パーソナル編集長」は価格に比して非常に高機能なWindows用DTPソフトで、このソフトによって編集作業効率は格段に上がり、8号で文字(写真以外)に関してはフルDTP化ができ、9号、10号、11号と進むにつれ、写真に関しても内製化し、完全データで印刷所に納品するような仕組みができました。
個人的には完全内製化には満足していましたが、スタッフは「編集長の作業が増えたおかげで発行間隔が延びた」と評判はよくありません。その間に「WindowsDTP PRESS」(技術評論社)という本に本誌のことが紹介され、新しい仲間と知り合い、Windows DTPについて孤軍奮闘していた時期からようやく抜け出すことができました。
PostScript(ポストスクリプト)出力やカラー化を考えて
「パーソナル編集長」でのワークフローや組版結果についてはある程度満足していたのですが、誌面のカラー化や、PDFを含めたPostScript出力(プリンターへデータを送る方法のひとつで印刷業界標準の出力方法)を考えたときに、十分な機能がなかったため、高価ではありましたが、「EDICOLOR」(エディカラー)というレイアウトソフトを使うことにしました。
数あるDTPソフトのなかで当時EDICOLORを選んだのは、以下の理由からでした。
- Windows版で安定して出力できる
- PageMakerよりマトモな日本語組版ができる
- Windows版QuarkXPressは高いし使っている人がいない
- EDICOLORのメーリングリストが充実している
このような理由で、EDICOLORを選択し、12号は完全にEDICOLORで制作することになりました。今後のことは作っていく段階で明らかにしていきますが、カラー化・単行本という企画も考えての選択です。芸能には興味がなくても組版やDTPに興味のある方には12号をどうぞ手にとってください。
「エディカラーでいこう!」と13号
EDICOLORの解説本「エディカラーでいこう!」で私は第8章「書籍編」、第9章「HTML編」を執筆しています。8章の書籍編の作例の素材のなかには私が某所のWebデザイン科で講師をしている自作教材の一部が含まれています。本当は芸能のことも入れたかったんですけどね……。
次号、13号はこのEDICOLORの最新バージョンを使って組版する予定ですので、そちらもどうぞお楽しみに。14号の進行方法もだいたい決まりました。
このコラムが本サイトの訪問者のみなさんにとって役に立つかどうかはわかりませんが、次回は「スクランブルエッグon the Web」の作り方を紹介する予定です。