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MISIA選曲講座

written by 岡田隆志

  Last Updated:2003/01/02
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MISIA全国ツアー「THE TOUR OF MISIA 2003」たけなわの年末年始ですが、いかがお過ごしですか。1月1日発売の追加公演のチケットは無事取れましたか? MISIA大ファンの私としては、アルバム『KISS IN THE SKY』の感想や、1月5日に見にいくライブの感想を書きたいところですが、それをぐっとこらえ、一歩引いた場所に身を置き、オーディションや発表会でMISIAの曲を歌うときに気をつけてもらいたいことをバシッと書かせてもらうことにいたします。題して「MISIA選曲講座」です。

「MISIAが歌謡曲になった日」

私はMISIAの存在をFMラジオで「つつみ込むように・・・」(1998年2月21日)リリース直後に知りました。そこから1stアルバムまでの衝撃を本誌9号に「Misia『Mother Father Brother Sister』ジャンルの境界線を破った」というコラムで詳しく書きました。

川口奈希紗
川口奈希紗 
「つつみ込むように・・・」
1999年3月13日(NHKホール)
「NHKのど自慢チャンピオン大会」グランプリ受賞直後

実は同じ9号に「Misiaが歌謡曲になった日」というタイトルの原稿を書いています。それはNHKのど自慢チャンピオン大会の総評で、後日、優勝した人が元プロだったとスポーツ紙にすっぱ抜かれて話題になった大会です。

私自身はこの大会で優勝した川口奈希紗が元プロであろうとなかろうと、「審査員の耳は確かだった」大会だったと書き、局側を非難しようという気にはなりませんでした。

私はこの日(1999年3月13日)を境にMISIAの曲が“歌謡曲”として市民権を得たという意味で9号に以下のように書いています。

 当日の私の評価は、「声に魅力があり、この曲を歌う資格はあると思うが、8分音符の歌謡曲ノリがどうも気に入らない」だった。もし、このとき彼女が別の曲、たとえばバラード系の熱唱曲だったら優勝できなかっただろう。そのあたりの選曲センスもあとから考えればプロ級だったということだ。とにもかくにもMisiaはこうして歌謡曲になっていくのかと、いろんな感慨を持った大会だった。

原稿中、“歌謡曲”という昔の言い方をあえて使ったのは、“ポップス”“J-POP”“リズム&ブルース”というカテゴリーを素直に受け容れられない大人に対してもMISIAの楽曲および存在が“お茶の間”に浸透したという意味で感慨深かったからなのです。

時を同じくしてこの頃から急にMISIAの曲が発表会などで歌われるようになりました。これは決して偶然ではないのです。

MISIAの曲は実際よりも簡単に聞こえる

さて、あなたがオーディションや発表会の場でMISIAの曲を歌うと決めたとき、「自分の何を見てもらいたいか」まで考えて決めているでしょうか。

私が取材活動を通して聴く「MISIAの曲を歌う女の子」のほとんどがその視点に欠けているのです。私がMISIAの大ファンであることで多少辛口になることはありますが、一緒に取材しているスタッフも同じような感想を持ちながら聴いているはずです。

「なぜあなたはMISIAのこの曲を選びましたか?」という審査員の質問にあなたは答えられますか?

想定される答えは「MISIAさんが好きだから」「あこがれているから」「この曲が好きだから」「歌ってみたかったから」「歌ってて気持ちいいから」……ほとんどがこうなるはずです。

これでは「あなたの何を審査員に見てほしいのか」の答えになっていないというのはわかりますよね?

逆に心の底で「私がMISIAの曲を歌ったら私なりの歌が歌えるから」と思ったとしても、決してそんなことを言ってはいけません。MISIAの曲はあなたが思っているほど簡単ではないのです。そこのところをよく考えてください。指導してくださる方がまわりにいたら、まずあなたはMISIAの曲をオーディションで歌う資格(最低限の歌唱力)があるかどうか相談してみるといいでしょう。

MISIAの選曲は不利

私が本誌7号に書いた原稿「選曲講座~今からでも遅くない97年度上半期ヒット曲チェック」の最後に以下のチェックシートをつけました。

□ 音域は合っている?
□ 選曲の理由を聞かれたら答えられる?
□ 自分らしさを出すのにふさわしい?
□ 余裕を持って歌える?
□ 歌詞が70%以上理解できる?
◇ コンテストの趣旨に合った選曲?
◇ イントロや間奏が必要以上に長くない?

これをあなたが歌いたいMISIAの曲にあてはめるとどうなるでしょう。
はたしてあなたにふさわしい曲になっていますか?

また、「Online Column - ELT選曲講座」の「オーディションや発表会の場所で好まれる曲とは」の項で以下の3つを挙げ、審査員の本音もつけ加えました。

  1. 本人の実力や成長度と合っている曲
  2. 明るく、テンポよく、歌詞に夢や希望が多く含まれている曲
  3. あまり多くの人に歌われないような曲

一応、3つに分けましたが審査員的立場としての本音をバラしてしまうと、好まれる選曲とはすばり「採点しやすい曲」なのです。

こちらもいかがでしょうか。有利・不利と考えたとき、有利とはいえないということだけはわかっていただけたかと思います。

MISIAパラドックス

あなたは「それでもMISIAを歌いたい!」のですか? それなら仕方ありませんね。このコラムをお読みのあなただけに歌うときのポイントをいくつかお教えしましょう。

【ポイント1】MISIAの曲は正確に歌え

MISIAの曲を「自分なり」の解釈・歌い方で歌うのはリスクが多すぎます。余計な解釈をつけ加えるとほとんどの場合「下手」に聞こえます。ですから余計なことはせず、ていねいに「ものまね」をするように歌ってみることです。

オーディションの場で「ものまね」的、あるいは「カラオケ」的に歌うのは、「没個性」「オリジナルがちらつく」「表面をなぞっているだけ」と受け止められるので基本的にはおすすめしません。

ただし、MISIAの歌に限っていうと、その存在感のある太い声、圧倒的なリズム感と歌唱力が(審査員の)耳のなかに残っているので、オリジナルの歌や声がちらつかないということはないと言っていいでしょう。

私は多くの取材経験から「余計な解釈をせず、とにかく正確に歌っていくこと」が逆にその人の個性の表現につながっていくのだということを発見しました。MISIAの曲を考える際、このような非常に逆説的なことが起きるのでこれを「MISIAパラドックス」と呼んでいます。

wayo
wayo
「キスして抱きしめて」
2002年3月30日
(南青山マ・サール)
Communication Live Party
「ZEST」vol.17のステージより

本サイトRecommended Eggs - wayoは自分のソロライブで「キスして抱きしめて」を歌っています。初めてこの歌を聞いたときには当然のことながらMISIAの声、歌い方が頭のなかをよぎっていたのですが、何度も何度も聞いているうちにwayoにしか歌えない「キスして抱きしめて」が聞こえるようになってきました。彼女は特別オリジナルな装飾をつけることなくいつの間にかMISIAの曲を自分のレパートリーにしてしまいました。

実際には彼女の「お約束的な歌い方」が彼女らしさを保っているのですが、本題から外れるので詳しいことは省略します。興味がある方は駒込サウンドファクトリーで毎月ライブをしているので直接ごらんください。次回は1月12日13:45~です。Hot Groove

【ポイント2】最初の4小節ですべてを決めろ

これはMISIAに限らずすべてに当てはまることです。

MISIAの曲のなかの多くは、歌いはじめる前(=歌詞が乗る前)にMISIAがハミングっぽくメロディーをなぞっています。これを歌うべきか歌わないべきか。これはあなたのその後の歌手人生を左右するかもしれない大問題といえましょう(笑)。

うまくトレースする自信があるならトレースするのもよし、自信がなければ一切歌わないのもよしです。とにかく「最初の4小節ですべてが決まる」ということだけを忘れず、甘い罠にはまらないようにしてください。これもある意味「MISIAパラドックス」です。

【ポイント3】目をつぶって歌うな

ある程度MISIAの曲がなじんでくると気持ちよくなってきます。そこでの落とし穴は、「もっと歌に集中しよう」と考えて目を閉じて歌ってしまうクセがつくことです。

審査員の心の声はこうです。

「目をつぶらないと集中できないのか」
「気持ちいいのはおまえだけだよ(=自己満足な歌を歌うな)」

ライブ会場で目を閉じて歌う歌手を見てて楽しいはずがないことを考えてもらえばわかると思いますが、最初に述べたように「自分の何を見てもらうか」ということを忘れないでほしいのです。審査員は「歌」そのものよりも、「歌に取りくむ姿勢」という意味で「目」を見ていることが多いのです。

尾沼友梨佳
尾沼友梨佳 
「果てなく続くストーリー」
2002年3月27日
(科学技術館サイエンスホール)
平尾昌晃ミュージックスクール
FAMILY MUSIC FESTIVAL

2002年3月、平尾昌晃ミュージックスクールの発表会で「果てなく続くストーリー」を歌った子がいました。その子はわずか13歳。曲がリリースされて2ヵ月弱でほぼ完璧に、しかも一切目をつぶらずに歌い上げました。彼女は尾沼友梨佳といい、「Online Column - 芸能予備軍事情6~HMS第28回ファミリーミュージックフェスティバルレポート」でも紹介された実力派の予備軍です。

今回挙げた3人はたまたまうまくいった3人なのではなく、いずれも相当の歌唱力を持っているからこそ、結果的に個性あふれる歌となったのです。そして取材活動においてMISIAを歌った100人弱のうち、このたった3人だけが記憶に残っているのです。

あなたが次の4人目になれる自信はありますか?

私の印象に残る必要はありませんが、審査員の印象に残るためには相当の歌唱力が必要とされることを前提として、さきほど挙げた3つのポイントを守るようにしてください。

今回は特に曲目を挙げて解説をしませんが、最後にひとことだけヒントを。2002年にリリースされた「果てなく続くストーリー」「眠れぬ夜は君のせい」はMISIAの曲のなかでは3つのポイントをクリアしやすいようですので狙い目かもしれません。

さて、またもや硬い話になってしまったので、ちょっと頭を冷やすためにMISIAのCDを聞いてみるとしましょうか。私はさいたまスーパーアリーナでライブを楽しんでくることにします。

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